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うまい本の作り方を見た気がします。『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』の感想を本格的に語る前に。

「タイトルで魅せ、本文で引き込む」ことができる素晴らしい本だと思う。


先週、悩みまみれの記事を投稿した時に、ちょうどこの本をみつけました 。
木暮 太一さんの書いた『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』です。

この本、表紙に書かれたタイトルだけを見て、購入を決心してポチりました。
表紙だけだと「こんな働き方」とは何を指しているのかも分かりません。
でも、そういう点から始まって、この本は出版物として参考になるなあと思いました。
内容の話をする前に、そういう部分を語ってみようと思います。


ところで、本を書くってなかなか難しいものだなあと思います。
どれだけ良い文章を書いたからと言って、手に取ってくれるわけじゃありませんから。


でもこの本はタイトルに訴求力があります。
現状のライフスタイルに不満を持っている人に「これを読めば何か変わるかも」と思わせられます。
その上で書かれている内容は直接的にタイトルの通りじゃないんですよね。
つまらないタイトルをつけるならこの本は『現代の働き方を資本論を通して見る』とかでしょうか。
うん、手に取らない。絶対に手に取らないわ。



いちばん大切なことを最後に持っていく説得力がある本だった。


そして、この本が参考になるなあと思った点がもう一つあります。
それは「本の中心部分が最後にあり、前半から積み上げてきたからこそ説得力がある」という点です。


よくあることなんですが、大抵の本って後半にかけて失速してしまうんですよね。
読者に読んでもらいたいがために、見どころのある部分を最初に紹介してしまう。
しかもそれで事足りてしまう内容だから、なおさら後半は失速感が否めない。
些末な事例に当てはめて本論を繰り返したり、内容が薄味になってしまったり。
そうやって40%くらい読んでから読まなくなった本がたくさんあります。


一方でこの本、大切なことが最後にあります。
この本での大切なことは「ラットレースからどうやって抜け出せばいいか?」という点と
「金持ち父さんの事例はぶっ飛んでるから、自分たちにできることって何か?」ということです。

そこでは、いくつかのポイントが書かれています。
- 自己にかかる経費が相対的に低い状態を作ろう。
- 土台を作っておいて、高くジャンプする労力を減らそう。
- 労働力の消費でなく、投資を行えるようにしよう。
- 「働く」の対義語に「遊ぶ」を置けるようにしよう。

他にも色々ありますが、ざっくりこんな感じです。
ですが、これらを最初に持ってこないこと納得感がありました。


これらの中心部分が語られる前に、そんな結論を導き出すためのポイントが紹介されていました。
それは『資本論』が説いている、労働の正体・企業の利益の出し方・物の価値の決まり方などです。
マルクスを勉強してこなかった自分にとって、基本的な考え方が物の価値だけでなく、企業や労働者にも同じ枠組みで当てはまっていくという説明が素晴らしくわかりやすかったのです。
そして、そういった講義から導き出される結論が素晴らしく分かりやすく、そしてためになる。
最初から最後まで、ずーっと夢中で読むことができる本がこんなところにあったとは…!!というかんどうがありました。



当たり前だが、不易を扱うと色あせない。


そして後になって気づきましたが、この本は10年以上前に書かれた本です。
働き方改革」だなんて叫ばれる昨今、10年前の働き方に関する感覚は今のものとは違うでしょう。
そう思っていましたが、見事に裏切られました。
それはこの本が「普遍的な部分」を取り扱っていたからです。


これは労働を定義し、今でも取り扱われる理論を立てたマルクスの考え方をベースにしているからでしょう。
それを「今の私たちの息苦しさをも説明できるんだよ」というのがこの本のミソです。
ワークライフバランスとか、働き方改革とか…そんな言葉に彩られるまでもなく、この本で語られていることは「働く」ということの本質に迫るものです。だからこそ10年前に予想もできなかった世相の現代になっていたとしても、この本に価値があるといえます。

この「不易なものこそ、陳腐化しづらい」ということも、この本で語られていることのひとつです。
ということで、本の内容も素晴らしかったのですが、とにかくこの本は一冊の書籍として秀でていると思ったので、読みながら感激したところを一生懸命書いてみました。